菌従属栄養植物

2023年10月12日 (木)

予想以上に遅れたアキザキヤツシロラン

また新たな依頼を受けて、アキザキヤツシロランの生育するモウソウチク林に行って来ました。以前の記事で、今年は天候の影響もあり1~2週間遅れではないかと書きました。でも、この日現地を見て、この竹林においては一月以上の遅れと訂正します。

例年なら、彼方此方に子房が上を向き果柄の伸びた姿が見られる頃です。ところが子房が上を向いているものはあっても、遠目から目につくような果柄の長さのものはなく、まだ蕾の個体が沢山見られました。

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この場所で、今頃こんな光景が見られるなんて予想もしませんでした。

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今年は、前回迄の訪問時に、上のような太い花茎の個体があまり見られず心配でした。

上手く撮れませんでしたが・・。

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ここだけで、十数個体生えていました。初回訪問時は、林内各所でこんな光景が見られると思っていました。それが数個体しか確認出来ず、狐につままれたような思いでした。

私が知る県東部の竹林では、この場所が一番個体数を見る事が出来ます。遅れたとはいえ、例年と同じような光景が見られて本当に良かった!

ラン科オニノヤガラ属アキザキヤツシロラン(Gastrodia confusa Honda et Tuyama)。タイプ産地は、和歌山県日高郡湯川村(現御坊市)とあります。

2023年10月 3日 (火)

ヤツシロラン類の生育地で見たキノコ

依頼を受けて、蕾の状態のクロヤツシロランとアキザキヤツシロランを探しに行きました。両種とも個体毎に開花時期に差はあります。でも、少し開花の早いクロヤツシロランの蕾の個体が見つかるだろうか?

【スギ林:クロヤツシロラン】

クロヤツシロランは、果柄が20cmほどに伸びたものもあります。初日は、土壌が乾燥気味で生育が遅れると思われるヒノキ林を探しました。でも、思ったより見つかりませんでした。

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翌日は、スギ林に移動しました。クロヤツシロラン自体がなかなか見つからず諦めかけていたところに、このスギの倒木が目に入りました。もしかしたら、クヌギタケ属以外のクロヤツシロランの共生菌の子実体?以前、このような子実体の生えた倒木の傍で、沢山のクロヤツシロランを見かけた事があります。

倒木に隠れるように、複数のクロヤツシロランが見つかりました。しかも、まだ蕾の個体もありました!無事依頼を達成する事が出来て良かった!除けたスギの落ち葉を元に戻し帰路につきました。クロヤツシロランの写真?コンデジを忘れたので無しです。

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こちらの子実体も同種と思われます。新たな実生床用に少し持ち帰りました。クロヤツシロランは、クヌギタケ属と近縁な菌群以外にも多様な菌群とも共生関係を持つことが示唆されたとあります。

【モウソウチク林:アキザキヤツシロラン】

蕾のアキザキヤツシロランを求めて再訪しました。それにしても暑いし、やぶ蚊とクモの巣に悩まされながら探索しました。

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枯れたモウソウチクに出現した子実体です。何というキノコだろう?

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ダイダイガサ(キシメジ科ダイダイガサ属)の幼菌も見つかりました。このキノコ、家の裏庭にも時々生えて来ます。名前を覚えたキノコは、みんなお気に入りです。

【アキザキヤツシロラン】

前回訪問から一週間後の、アキザキヤツシロランの様子を撮ってみました。

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落葉の下に潜んでいたアキザキヤツシロランの花芽です。この竹林で葉、例年9月20日頃に多くの花を見られたのに、まだこんな状態の塊茎がいくつか見つかりました。

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モウソウチクの葉が重なり合ってくっ付き一枚布のようになっていたため、伸び損ねた花茎です。

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前回、見られなかった場所に開花寸前の蕾がありました。例年より、1~2週間遅れという判断が正解だったようです。もう一度、この場所に行かなければなりません。やぶ蚊がいなければいいのですが・・。


研究者の先生たちにより、アキザキヤツシロランとクロヤツシロランの共生菌は、どちらもキシメジ科(Tricholomataceae)のクヌギタケ属(Mycena)もしくはその近縁属である事が解明されているそうです。実生栽培実験では、自生地の部材を採取して菌糸を繁殖させた実生床に種子を蒔いていますが、容器内に繁殖した菌糸が共生菌であるかは分かりません。プロトコウムが確認出来るか塊茎から伸びた根状器官が菌糸と接触した部分での変化で知る事になります。またその子実体の姿も分からずに、いわば当たって砕けろ方式で行って来ました。
◇修正しました(スマホのPCモードで見てくださっている方へ)
ダイダイガサ上段の白いキノコの写真が、パソコンで見ると並んでいますが、スマホのPCモードで見ると上下になっていました。ブログは、選択したテンプレートやプロバイダーによっても微妙な違いや癖があります。私はFC2とココログを使っており、どちらもHTMLで作成しています。写真を横並びに表示する時、各々のHTML文章をFC2では一文字空けてココログでは空けません。年寄には、いろいろ面倒です。

2023年9月28日 (木)

アキザキヤツシロラン別の自生地

アキザキヤツシロランの異変が気になり、少し離れた別の自生地へ行って来ました。

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モウソウチクの密度が高い場所ですが、ここは少し空いていました。

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彼方此方探しまわり、上の場所でこの2個体を見付けただけでした。

期待して訪れたモウソウチク林でしたが、アキザキヤツシロランの姿が見えません。どうした事でしょう?前回訪問した場所と同じく、例年より成長が遅れて短い花芽をつけた塊茎が落ち葉の中に潜んでいるのだろうか?

諦めきれずやぶ蚊とクモの巣に悩まされながら探索していると、面白い形態のキノコが生えていました。

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キツネノ○○とかいうスッポンタケ科のキノコの子実体だと思います。ご存知の方、教えてください。

「コイヌノエフデ」と教えていただきました。フジタケさん、ありがとうございました。

残念な気持ちで行きとは別のコースを歩いていると、エビネが生えていました。一時期、園芸採取などにより姿の見られなくなったエビネですが、復活の兆しを感じながら帰路につきました。

2023年9月25日 (月)

モウソウチク林で見た気になる植物

【タシロラン?】

アキザキヤツシロランの異変を調べるために、モウソウチクの落ち葉を除けたところ、見た事のあるような塊茎らしきものを発見しました。

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「塊茎から細い根茎が地中を這い、途中と先端に球状の塊茎を作って増える」・・Web記事にあったタシロランの解説です。

そして、次はタシロランの種子を蒔いた実験容器内に出現した物体です。実生栽培実験なので、別ブログ「権兵衛の種蒔き日記」に掲載した写真です。

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モウソウチク林で発見した物体と似ていませんか?こちらの容器は、菌糸の繁殖を期待して、ヒトヨタケ属の発生しやすい刻んだ稲わらで覆ったため現在の姿は見られません。既に菌糸が繁殖し始めています。共生菌かは不明ですので、ある意味かけですが・・。

モウソウチク林で見た塊茎らしきものからタシロランの花が咲くかは、たぶん確認出来ない(※)と思いますが、両方の写真を比較してタシロランの塊茎だと思っています。

※タシロランは、「地上部に8日しか存在しなかったというデーターもある」と日本のランハンドブックの解説にあります。

2023年9月22日 (金)

アキザキヤツシロランの異変

そろそろ、富士市域某所のアキザキヤツシロランが咲き始める頃なので、様子見に行って来ました。ところが、全然姿が見えない・・どうしたのだろう?

彼方此方歩き回って、一本の立ち枯れたモウソウチクの周りに差し掛かると・・。

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咲いていました!このような姿を求めて訪れたのに、このモウソウチクの周りでしか見る事が出来ませんでした。

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今年は他の花と同様に、いつもより早く開花しているかもしれないと思って出かけました。この竹林では、今迄このような花数の多いアキザキヤツシロランを沢山見る事が出来ました。

こんな写真を掲載すると、眉を顰める諸先輩も多いとは思いますが・・。

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この生育地の異変が気になり、堆積したササの葉を除けて塊茎を探してみました。ヤツシロラン類は、地中深く塊茎があるのではなく、枯葉や枯竹のすぐ下にあります。伸び始めは半透明だった根状器官が変色して、一部に疣の様なものが出来ています。菌糸から養分を吸収した証です。また、塊茎から出ているのは花芽で、これは開花株という事になります。まだ2cm程度です。

範囲を広げて確認すると、このような状態の塊茎が幾つか見つかりました。今夏は、雨不足で野菜の葉先が枯れる事もありました。アキザキヤツシロランが栄養依存する林床の菌糸が繁殖できず、花芽の成長が遅れたのではないでしょうか?上に掲載した開花株の周りは、ある理由があって土壌湿度が保たれて(安定して)いたものと思われます。また9月下旬になっても最高気温が30度を超すような日が続いています。伸び始めた芽が傷んだのかもしれません。掲載したような塊茎が無事開花に至るのか週ごとに観察したいと考えています。

2023年9月21日 (木)

クロヤツシロランの花

今日は、久々に下界の田園地帯へ行って来ました。稲わらを貰う事になっていたのですが、なかなか取りに行けず本日早朝やっと行く事が出来ました。ギリギリセーフで、雨に濡れずに済みました。それにしても凄い雨でした。

富士市域の山間地で、クロヤツシロランの花が咲いていました。

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痛みもなく、ちょうど見頃でした。

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この花は、少し角度を変えて撮ると違った印象を受けます。アキザキヤツシロランと違い、花茎が短く地際に咲くので見つけ難いし撮り難い花です。

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この場所は、一茎に5~6個の花が見られました。栄養依存する菌糸の状態が安定しているようです。果実期には驚くほど果柄が伸びます。まとまって生えていると思って基部を見ると、一茎から複数本の果柄が伸びている事が分かります(果柄の数が開花株の個体数ではありません)。

ラン科オニノヤガラ属クロヤツシロラン(Gastrodia pubilabiata Y.Sawa)。

静岡県版RDBでは、クロヤツシロランが準絶滅危惧(NT)に指定されていますが、アキザキヤツシロランは指定がありません。県東部で見る限り、逆ではないかと思っています。日本のランハンドブックなどによると、クロヤツシロランは後で記載された種で、長年アキザキヤツシロランと混同されていたようです。手元にある目録にもそれを裏付けるような生育地情報が記録されています。

静岡県植物相調査報告書には、クロヤツシロランの生育地として遠州方面しか掲載されておりません。また生育場所として「竹林の中の腐葉土」となっています。竹林にも生えますが、県東部ではスギ・ヒノキ林に生育する個体数の方が圧倒的に多く、また常緑広葉樹林でも稀に見る事があります。

2023年9月 3日 (日)

不法投棄監視パトロールで出会った野生ラン

山間の地では秋風を感じる季節になりましたが、まだまだ異常に暑い日が続いています。林道が主体のパトロールでもベストが汗でびっしょりになりました。

8月下旬のパトロールで見かけた野生ランを掲載します。

【ミヤマウズラ】

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サクラの古木に着生するミヤマウズラです。何年か前から見守っていますが、今年初めて花をつけました。

【コクラン】

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この場所には、クモキリソウもあったはずですが、見当たりませんでした。Liparisの仲間は、突然姿を消してしまう事があります。比較的目にする事の多いコクランも、沢山見かけた場所を再訪すると全然姿の見えない事があります。案外気難し屋なのかもしれません。

【ヤクシマヒメアリドオシラン】

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数年前から、この小さな野生ランの分布を調査・記録しています。この場所は、ナチシダ(シダ植物)を調べていて今回発見しました。地域における野生ランの個体数では、このヤクシマヒメアリドオシランがダントツだと思っています。

【ツチアケビ】

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花の時期に掲載したツチアケビです。果実期に入り赤いウィンナーソーセージが沢山ぶら下がっていました。種子が熟すのは何時くらいだろうか?


最近では、山野を歩く機会が少なくなりました。希少植物の生育地を訪れると、目にしたくない光景を見る事が多く、以前のような探索熱は無くなりました。でも、たまに歩くと違った視点で植物を見る事が出来るので、それはそれで良かったと思っています。

2023年6月28日 (水)

ツチアケビ

今月2回目の、不法投棄監視パトロールに行って来ました。施錠された林道のゲート奥に・・。

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頂部を野生動物に食べられたと思えるツチアケビを発見!近年、このような姿を良く見かけます。シカによる食害ではないかと思います。

そして別の場所では・・。

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凄い!単体で生える事もありますが、このように群生する事も珍しくありません。

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花を接写してみました。洋ランを思わせるような綺麗な花ですね。

ラン科ツチアケビ属ツチアケビ(Cyrtosia septentrionalis (Rchb.f.) Garay)。

ツチアケビは多年草との事ですが、続けて全く同じ場所で見られる事は稀です。菌類から開花・結実に十分な養分を得られないと、地下茎だけで複数年生き続けるようで、3年後に花を見た事があります。

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中国名は「血紅肉果蘭」。その名を思わせる様な、こんな液果を実らせます。果肉の中には小さな種子が入っていて、種皮はとても硬いと聞きました。自動自家受粉するそうで、当初は膨らみ始めた子房を沢山見ますが、落ちてしまうものも多く赤く熟す果実が数個しかついていない事もあります。野鳥が種子の運び手の一種とありますが、食痕のある果実を見るのは稀です。


菌従属栄養植物(腐生ラン)の記事が続きました。2023年8月3日付で、福音館書店から次のような本(月刊誌)が発売されます。小学生向けとなってはいますが、光合成を止めた植物の生態を学ぶのに最適な本だと思います。興味のある方は、読んで見てください。

「植物」をやめた植物たち (たくさんのふしぎ2023年9月号) 雑誌 – 2023/8/3

2023年6月27日 (火)

タシロラン

先日、再生畑の未耕作エリアの草刈りをしていて、タシロランを切り飛ばしてしまいました。気付いたのはその1本だけでしたので、写真を撮って腊葉標本とする事にしました。

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光合成をせず、100%菌類(木材腐朽菌のイタチタケなど)に栄養依存している菌従属栄養植物です。

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ガラス細工のような花です。

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下の方の子房は膨らんでいました。図鑑には、開花後3~4日で種子散布し・・」とあります。

ラン科トラキチラン属タシロラン(Epipogium roseum (D.Don) Lindl.)。

初めて富士市内でこの植物を見たのは、所有する別の畑でした。一昨年は、今回草刈りした再生畑でも見付けました。びっしり生えていたササを刈取り、その場所が草地になってからの事でした。大学生が卒業論文の発表用にまとめた資料の中には、隣の集落に生えていたタシロランが掲載されていました。地域でも生育地を拡大しつつあるようです。

ただ、地上に姿を現してから一週間程度で姿を消してしまう事もあるそうで、昨年見た場所でも再会のタイミングが難しい植物のようです。

2023年6月22日 (木)

ナヨテンマ

ナヨテンマ・・私はこの植物に出会った事がありませんでした。以前、ある先生から、県内に沢山生育している場所があると伺った事があります。友人から送ってもらった写真を見て、「ヤツシロラン類の花に似ている!」と思い、直接観察したくなりました。

位置情報を教えてもらい、嫁さんと一緒に昨日探索に行って来ました。

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初めて目にしたナヨテンマです。予想していたより花茎が細く丈が高い!

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やはり、ヤツシロラン類の花に良く似ています。

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花茎にアブラムシが集っていました。あまり見かけない色の種です。

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比較のためにヤツシロラン類の花を掲載します。左がアキザキヤツシロランで右がハルザキヤツシロランです。似ているでしょ?ただ、ヤツシロラン類は花茎が短く、受粉すると花柄が驚くほど伸びて来ます。ナヨテンマは花茎が長く開花時期から目立っています。受粉すると花柄が少し伸びるようです。花茎が長い事に関しては、オニノヤガラやシロテンマなどと同じですね。

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花筒が萎み子房の膨れているものもありました。しかも横向きだったものが上を向いています。種子散布が近いと思われます。

ラン科オニノヤガラ属ナヨテンマ(Gastrodia gracilis Blume)。


私は丹沢の師匠に教わり、ヤツシロラン類の実生栽培実験を行って来ました。実験容器の中で、ハルザキヤツシロラン、アキザキヤツシロラン、クロヤツシロランの花を見る事が出来ました。ナヨテンマは、オニノヤガラの生薬名と同じテンマの名がついていますが、DNA情報を用いた解析の結果、オニノヤガラよりもヤツシロラン類に近縁である事が分かったそうです。

その事から、師匠と一緒にナヨテンマの実生栽培にも挑戦してみたくなりました。果実が熟す時期が不明ですが、現地の様子から2週間後くらいには果実が割れ種子を散布する個体があるのではないかと思います。植物に興味がなく渋い顔の嫁さんに、その頃の同行をお願いしました。