野生ラン

2024年8月21日 (水)

ナギラン

今朝は6時前に家を出て、県中部某所へ行って来ました。やぶ蚊とクモの巣に悩まされながら歩いていると、ナギランが目に留まりました。

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一株、二株・・この植物を知らなければ、オオバノトンボソウと間違えたかもしれません。

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60cmくらいの範囲に、三株確認できました。

オオバノトンボソウより葉が固く葉柄が長いので、見慣れると花期以外でも区別出来るようになります。この植物に出会いたくて県中部の荒山を駆け巡ったことがあります。思い入れも植物の識別に役立っているようです。

この植物は静岡県において「伊豆、東部、中部、西部の記録があり、西部は各地にある。他地域は少ない。」とあります。私の住む東部では記録はあるものの未確認だったので、中部に足を延ばして初めて出会う事が出来ました。その一週間後、オオバノトンボソウが多くみられる東部某所で、花をつけたナギランに出会いました。希少植物との出会いはそんなものです。

ラン科植物は、光合成をしながらも菌類に栄養依存していることが知られています。また塵のような種子は養分を殆ど持たないため、発芽も菌類に栄養依存しています。ナギランは、立派な葉を持ち御覧のように新葉も伸びていますが、他のラン科植物に比べて菌への依存度が高く、暗い場所でも生育出来るそうです。ただ菌類が好みそうな湿潤な場所というより、乾燥気味の斜面で見ることが多いように思います。

早起きして県中部まで行った目的?それは秘密です。目的は無事達成でき、義母の笑顔を見て帰路につきました。

ラン科シュンラン属ナギラン(Cymbidium nagifolium Masam.)。

2024年7月30日 (火)

ムカデラン開花

ムカデランは、古い資料では静岡県東部・西部・北部の記録があります。環境が合えば大株になる種なので、新たな生育地が追記されているものと思われます。

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東部ではN先生の記録がありますが、花の接写が出来る場所ではありません。掲載写真は庭木に着生させたものです。

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とても小さな花ですが、見比べると萼片や花弁に変異があります。

「生育地は向陽地の樹幹や岩」とありますが、あまり陽当りが良すぎると葉が変色し次第に痛み枯れ死するように思います。南面に着生させたのに北面に長く伸びています。環境が合えば短期間に大きな株になるようです。


「山間の地では、集落全体が失われゆく照葉広葉樹林の代わりになっている」ことに注目した常葉大学の学生さんたちの調査に立ち会ったことがあります。集落の庭木などで出会った着生ランは、カヤラン、ヨウラクラン、クモラン、ムギラン、そして栽培品を着生させたフウラン、セッコクなども見られました。私はそれらの果実を見ていますが、ムカデランの果実はまだ見たことがありません。送粉者がいないのだろうか?あまりにも小さな花なので、人工授粉できるか分かりませんが挑戦してみようと思います。

2024年6月23日 (日)

タカネイチヨウラン

10年ほど前、ブログ記事に「亜高山帯高域に生育するイチヨウランは、低域に生育するものとは別種のようだ」と書きました。高域で見かける個体は、丈が短くて花が小さく俯き加減に咲きます。唇弁も白っぽく無班に近いものが多くて、とても弱々しい印象を持ったからです。

その記事を見た研究者の方から「他県でも同じようなことを言っている人がいた」と連絡がありました。2016年にその方の依頼を受け、複数回生育地を案内しました。

それから6年後の2022年に、以前からフィールドワークの手伝いをしてきた別の研究者からの依頼で、採集許可を取ってもらい低域と高域のイチヨウランを彼の元へ送りました。解析の結果、低域と高域では共生菌が異なるとの連絡がありました。そして、2024年5月にタカネイチヨウランの記載論文が送られてきました。

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低域に生育するイチヨウラン(Dactylostalix ringens)です。背萼片や側花弁が立ち上がっていて誇らしく咲いている印象の花です。萼片や花弁の基部に斑点があり、唇弁の斑紋も目立ちます。

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亜高山帯高域で、このピンボケ写真を撮った頃から、上のタイプとかなり違った印象を持っていました。

そして次が、最初の研究者と二度目の調査に行った時撮った写真です。

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過去にPergamina unifloraとして記載されたものは、Ylistでは現在イチヨウランのsynonymになっていますが、イチヨウラン(Dactylostalix ringens)ではない種として復活させたそうです。復活させた種はタイプ標本が沢山あったため(すべてが同じとは限らないため)、海外にも連絡を取って確認したとメールに書かれていました。大変な作業であっただろうと思いました。

亜高山帯高域で見られることから、タカネイチヨウランの和名が付けられました。長年気になっていた事が研究者により解明されて、とてもすっきりした気持ちです。ちょっぴり残念だったのは、この種が静岡県だけでなく他地域でも生育確認されていたことです。

ラン科イチヨウラン属タカネイチヨウラン(Dactylostalix uniflora)。

高域でも低域と同じようなタイプの見られるところもあります。交雑したのか、中間的な個体も確認されているようです。場所によっては、タカネイチヨウランばかりのところもありましたが、研究者のネットワークによる調査では、希少種であるイチヨウランよりも遥かに個体数が少ない超希少種である事が書かれています。

2024年5月20日 (月)

マルバウツギ

今日は、事前の予報よりずっと早く天気が回復して、もったいないような良い天気でした。打合せがあって出かけた先で、いろいろな人との繋がりが判明し、話が弾んで長居してしまいました。

家の周りでは、ヒメウツギの花が終わりマルバウツギが咲いています。萌の散歩道に咲くマルバウツギの花を見るたび、一緒に歩いた日々の事が偲ばれます。

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小雨降る中で撮ったため、こんな写真になってしまいました。
マルバウツギはウツギより葉が丸いこと、花糸に翼があって肩がなだらかなことなどの識別点があります。そして一番わかりやすいのが「花の中心部にオレンジ色の花盤が目立つ」ことです。

アジサイ科ウツギ属マルバウツギ(Deutzia scabra Thunb. var. scabra)。


昨日は、研究者より嬉しい知らせがありました。前ブログに「生育高度により別種のような印象を受ける」と書いた植物があります。その記事を見た別の研究者から「他県でも同様のことを言っていた人がいる」と聞き、静岡県内の生育地を案内しました。

それから数年後、別の目的で採取許可を取ってもらい生態サンプルを採取して研究者に送りました。そのサンプルで新たな発見があり「別種と考えられる」と連絡がありました。地域限定ならいいな・・という思いもありましたが、生育確認されたのは静岡県だけではありませんでした。長年の思いが実を結び、昨晩研究者から記載論文が送られてきました。微力なお手伝いですが、成果に結びつくと嬉しいものです。

植物名は、もう少し伏せておきます。

2024年5月 5日 (日)

コケイランと不明な植物(セリバヒエンソウ)

先日、ある場所の探索をしていてコケイランに出会いました。その後の予定もあり急ぎ足で探索しましたが、約百メートルの範囲で開花株が5株見つかりました。

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最初に見つけたのは、駐車した車の前でした。植物に興味のない嫁さんでは、指さしても気づかないかもしれません。

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こちらはスゲの生える湿地の近くです。葉が見当たりませんでした。近くに生えるサイハイランも花後に葉が枯れ、秋に新葉が姿を現します。開花株でも葉の枯れる時期に個体差があるようで、まだ青々したものもありました。同属のコハクランに比べて柔らかでシュロソウを思わせるような感じです。

静岡県内の諸先輩のWebページに掲載されているコケイランの花の唇弁は、上右の写真のように無地のものが多いと思います。ところが隣県の山で見た個体には紅紫色の斑点がありました。Wikipediaにも同様の解説がされています。

気になるのは、低山の個体は小川脇など湿り気の多い場所で見られますが、隣県の個体はススキの生える小さな山の上に生えていました。とても湿り気の多い場所というような感じではありません。もしかして変種?なんて思っています。

ラン科コケイラン属コケイラン(Oreorchis patens (Lindl.) Lindl.)。


次に行った場所で出会ったこの植物・・葉は見ていたかもしれませんが、花は初見だと思います。⇒セリバヒエンソウと教えていただきました。nohana様、有難うございました。原産地は中国で明治時代に渡来した帰化植物とありますが、研究者による逸出帰化との記述もあります。

キンポウゲ科デルフィニウム(オオヒエンソウ)属セリバヒエンソウ(Delphinium anthriscifolium Hance)。

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花には距があり、その外側には毛が生えています。少し明るい林縁に生えていました。この植物の名前がわかる方、教えてください(静岡県東部富士宮市にて撮影)。


一昨日は再生畑の未耕作エリアの草刈、今日は別の休耕畑の草刈と耕運機かけをやって来ました。休みながらゆっくりやればいいのですが、せかせかやるので流石に疲れました。性分なので仕方ありません。まだ残った作業があります。頭の痛いことです。

2024年3月24日 (日)

カヤランの苗再び

ツツジの枝に生えてきたカヤランの実生苗を、追跡観察してみました。

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当初は、クモランの葉状体(仮称)かと思っていたカヤランの発芽間もない姿です。

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こちらは、葉状体の端部から普通葉が出ています。

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左には普通葉が2枚見えます。普通葉だけが2~3枚の個体を見かけますので、そのくらいまで成長すると葉状体は姿を消すようです。クモランでいえば、葉緑素を持った着生根が伸びた頃に姿を消していきます。発芽間もない苗の栄養補助器官のようなものだと思います。

右はカヤランの果実です。一般的なラン科植物の果実と違い、果皮の片側だけが裂開します。種子が飛散するころに、蕾を見ることが出来ます。沢山のカヤランの苗を見て、森町の古民家で見たフウランの実生苗を思い出しました。イヌマキの枝にびっしり生えていました。そういえば果実や種子の形態が似ています。毛糸の繊維のような種子は、風で飛ばされ樹皮に留まりやすいようです。

ラン科カヤラン属カヤラン(Thrixspermum japonicum (Miq.) Rchb.f.)。

ヨウラクランの苗

山間の地にある我が家の庭木では、いろいろな着生ランを見ることが出来ます。種子発芽からどのように成長していくのか、観察してみたいと思っていました。

イヌマキの枝に着生していたヨウラクランの実生苗を撮ってみました。接写用のコンデジを使いましたが、あまりに小さいのでピンボケになってしまいました。

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こちらの苗は、スケールで測ってみると葉幅が1mmに満たないとても小さなものです。

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こちらが、今回見つかった一番小さな発芽苗です。上に写っているのはセッコクの着生根で、直径1mm程度です。苗がいかに小さいか分かると思います。

ラン科は単子葉植物です。一枚葉の苗を探していますが、まだ発見できません。

ラン科ヨウラクラン属ヨウラクラン(Oberonia japonica (Maxim.) Makino)。


着生ランの根は、水分や養分を吸収・貯蔵する特殊な構造をしているそうです。でも、乾燥により枯れてしまう実生苗も多いと思います。枝に着生する個体は枝の上側ではなく、下側についているものが殆どです。

あるWebページに、温帯から亜寒帯に生育するラン科植物の種子は、完熟すると休眠に入り冬の寒さを経験させないと休眠から覚めない・・というようなことが書かれていました。地域に生育する着生ランは、今頃果皮が裂開し種子を飛散させるものがあります。種子を飛散させる時期によって、例外もあるのではないでしょうか?

2024年3月14日 (木)

姿を消したコクラン

再生畑の隣に、スギ・ヒノキの混合林があります。林床にはコクランが生えていました。様子を見に行くと、姿が見えません。どうしたのだろう?

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上部を何ものかに食べられていました!

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こちらはオオバコのようです。最初はシカかと思ったのですが、他の食痕や足跡からもウサギではないかと思われます。

以前撮った写真ですが・・。

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コクランは、クモキリソウ属(Liparis)とされていて、同属他種は冬に地上部の枯れるものが多いですが、基本的には冬に地上部(葉)が枯れません。

先生から「日本で生育が確認されたラン科植物」の一覧表をあずかり、新記載種やDNA情報の解析により、属名(学名)の変更になったものを追記・訂正しています。少し前までは、コクランは上記のようにクモキリソウ属(Liparis)とされていましたが、最新のYlistでは、下記の二つの学名が標準として記載されていて、従来の学名Liparis nervosa (Thunb.) Lindlは、synonymとなっています。

Empusa nervosa (Thunb.) T.C.Hsu:文献情報(原記載文献など): Orchadian 15: 40 (2005).
Diteilis nervosa (Thunb.) M.A.Clem. et D.L.Jones:文献情報(原記載文献など): in T.C.Hsu & S.W.Chung, Ill. Fl. Taiwan 2: 18 (2016).

2023年4月11日付けの編集によるYlistでは、他の種でも標準学名が2種類記載されたものがあります。これはどうしてでしょう?

2024年2月24日 (土)

カヤランの実生苗

家族が休みの日は、できるだけ外出しないで家にいます。ところが、今日は見捨てられ一人ぼっちでした。PC作業に飽きたので、萌がいたら・・なんて思いながら、裏庭植物園を眺めて歩きました。

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カヤランの着生していたツツジの枝を見ると、前回見逃した枝に沢山の実生苗が生えていました。

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左は上右の枝を少し角度を変えて接写しました。そして、この枝の裏側を見たのが右の写真です。あれっ?クモランの発芽初期に見られる葉状体(仮称)のようだ!

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こちらの枝にも、同じようなものが見えています。これはカヤランだろうか?さらに右のマメヅタの赤ちゃんのようなものは?

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この写真をよく見ると、片方(写真の上側)は葉状体のような形態で、もう片方は先端が尖ったカヤランの成長した株と同じ形態の葉が見えています。葉状体のようなものはクモランではなくカヤランの発芽間もない姿のようです。これも、クモランと同じく葉ではなく胚芽に由来する(発芽苗の茎のような)部分で、普通葉が成長し根が伸びるとともに姿を消していくのではないかと思います。

掲載した写真で発芽したてに一番近いのは、マメヅタの赤ちゃんのような上右の写真のようです。クモラン同様、庭木に着生していたからこそ気付いたことです。今後は、この葉状体のようなものの変化を観察していくつもりです。

成長が遅く・・と書かれたWebページもありますが、盆栽や庭木に着生しているヨウラクランやカヤランは、ラン科植物にしては開花に至るのが速い方だと思っています。

ラン科カヤラン属カヤラン(Thrixspermum japonicum (Miq.) Rchb.f.)。

2024年2月18日 (日)

ヒメフタバラン(県東部)

この野生ランに初めて出会ったのは、十数年前の五月連休でした。同じくらいの標高にも見られるアオフタバランや、亜高山帯に生育する種は初夏以降に咲くのに、もう花柄子房の膨らみ始めたものもありました。発見時点では、種名が分かりませんでした。

数年後に別の場所でも見つけましたが、いずれも個体数は少なく極狭い範囲でしか見られませんでした。県西部で大群落に出会うまではそういう種だと思っていました。

一番高度の低いところでは、そろそろ姿を現しているかもしれないと思い、様子見に行ってきました。

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冬に地上部は枯れますが、新たな葉が展開していました。右には蕾を持った個体が見えています。

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ヒメフタバランは、地下茎で栄養繁殖もします。掘ってみないと分かりませんが、こちらは栄養繁殖苗かな?

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花期は、3~5月とあります。この場所では、3月に花が見られるかもしれません。ヒメフタバランは、光合成をしながら主としてロウタケ科の菌類にも栄養依存しているそうです。ロウタケ科というとキンランやササバギンランなどの菌根菌としても挙げられています。

ラン科サカネラン属ヒメフタバラン(Neottia japonica (Blume) Szlach.)。フタバラン属(Listera)はDNA情報による解析の結果サカネラン属(Neottia)に改められました。

オオフタバラン(Makino 1893)の別名もあります。この場所の個体はそれほど大きくありませんが、30cmくらいになるものもあるようです。フタバラン類の中では大型に属する事から牧野博士によって命名されたようです。

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