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2024年6月23日 (日)

タカネイチヨウラン

10年ほど前、ブログ記事に「亜高山帯高域に生育するイチヨウランは、低域に生育するものとは別種のようだ」と書きました。高域で見かける個体は、丈が短くて花が小さく俯き加減に咲きます。唇弁も白っぽく無班に近いものが多くて、とても弱々しい印象を持ったからです。

その記事を見た研究者の方から「他県でも同じようなことを言っている人がいた」と連絡がありました。2016年にその方の依頼を受け、複数回生育地を案内しました。

それから6年後の2022年に、以前からフィールドワークの手伝いをしてきた別の研究者からの依頼で、採集許可を取ってもらい低域と高域のイチヨウランを彼の元へ送りました。解析の結果、低域と高域では共生菌が異なるとの連絡がありました。そして、2024年5月にタカネイチヨウランの記載論文が送られてきました。

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低域に生育するイチヨウラン(Dactylostalix ringens)です。背萼片や側花弁が立ち上がっていて誇らしく咲いている印象の花です。萼片や花弁の基部に斑点があり、唇弁の斑紋も目立ちます。

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亜高山帯高域で、このピンボケ写真を撮った頃から、上のタイプとかなり違った印象を持っていました。

そして次が、最初の研究者と二度目の調査に行った時撮った写真です。

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過去にPergamina unifloraとして記載されたものは、Ylistでは現在イチヨウランのsynonymになっていますが、イチヨウラン(Dactylostalix ringens)ではない種として復活させたそうです。復活させた種はタイプ標本が沢山あったため(すべてが同じとは限らないため)、海外にも連絡を取って確認したとメールに書かれていました。大変な作業であっただろうと思いました。

亜高山帯高域で見られることから、タカネイチヨウランの和名が付けられました。長年気になっていた事が研究者により解明されて、とてもすっきりした気持ちです。ちょっぴり残念だったのは、この種が静岡県だけでなく他地域でも生育確認されていたことです。

ラン科イチヨウラン属タカネイチヨウラン(Dactylostalix uniflora)。

高域でも低域と同じようなタイプの見られるところもあります。交雑したのか、中間的な個体も確認されているようです。場所によっては、タカネイチヨウランばかりのところもありましたが、研究者のネットワークによる調査では、希少種であるイチヨウランよりも遥かに個体数が少ない超希少種である事が書かれています。

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コメント

こんにちは。
とっても素敵な花ですね!!!

もこままさん、今晩は。
深山の針葉樹林内に生えるこの野生ランを、初めて見たのは十数年前になります。
一人で探索していて出会った時の感動は今でも思い出します。
最近物忘れが激しくなりましたが、そういう記憶だけは鮮明です。

「10年ほど前、ブログ記事に「亜高山帯高域に生育するイチヨウランは、低域に生育するものとは別種のようだ」と書きました。高域で見かける個体は、丈が短くて花が小さく俯き加減に咲きます。唇弁も白っぽく無班に近いものが多くて、とても弱々しい印象を持ったからです。」・・・これがきっかけとなり現地調査、追跡で新種として同定・発見になったのですね!一方ならぬ努力を重ねた結果なればの事、おめでとうございます。日頃、富士山中を歩いてはいますがそんな事、滅多にある事ではないですね。

春夏秋冬365様、お早うございます。

昔は、少し形態が異なるものを品種や変種として記載したことも多かったようで、米倉先生らのYlistで沢山のsynonym(同一とみなされる種や属につけられた学名が複数ある場合、標準学名以外のもの)が記載されている種があります。現在と違い学名が氾濫していたようです。新種記載を研究者(科博などと交流のある)が行うのも、そういう混乱を防ぐ意味で大切なことだと素人ながらに思っています。
今回は、花などの形態だけでなく共生菌の違いや新しい手法による遺伝子解析など科学的な根拠が伴ったため、イチヨウランではない種として認められたそうです。
最初に案内した研究者から引き継ぎ、短期間で記載論文をまとめてくれた人使いの荒い研究者に感謝です。

興味を持って拝読いたしました

タカネイチヨウランは隣県の亜高山帯針葉樹林下に
生育してるのを時々みます

イチヨウランの葉に紫褐色の斑点入りもヒメウズラヒトハラン
として区別するようですが(斑点と縦縞の斑が両方入った個体もあります)
名前として殆ど聞きません

いずれも盗掘され個体数が凄く減っています

うーさん、今晩は。
私の探索範囲でも、葉に斑点のあるものと白い筋のあるものが見られます。
同じ場所で複数見られることがあるので、実生で引き継がれる葉の変異と思います。
斑点のあるものはYlistでは品種となっていますが、花の形態は同じように見えるので区別しなくてもいいように思っています。

タカネイチヨウランの論文がまとめられる頃、念のため隣県(裏側)の写真も確認したいと言われ、ピンボケ写真を研究者に送りました。そこは比較的個体数が多く、一般種(イチヨウラン)は見られませんでした。
関東や中部だけでなく、長野や東北、北海道、ロシアでも生育確認されたそうです。
広範囲に生育しているのに研究者が目をつけなかったのが不思議でしたが、花の形態だけでなく共生菌の違いが判明したのが大きかったようです。

地域では葉がシカの食害に遭うようになりました。
晩秋に葉の更新があるため、他の草が芽覚めない早春に肉厚の葉が目につきやすいのかもしれません。
また、全く同じ位置で毎年花が見られないことが多いです。
花が咲き結実すると枯れるか或いは花が咲いた個体は休眠するのではないかとも思っています。

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